今では信じられないことだが、かつての日本社会を評して「一億総中流」なんていう言葉があった。
小泉改革以降、日本にも本格的なグローバリズムの荒波が押し寄せてきた。
日本中の富は、多国籍企業と、一部の富裕層のもとに集中し、かつて「一億総中流」を形成した国民の99%は、貧困層へと叩き落とされることになる。
こうした傾向は世界中の国々で起こっている。
本書で紹介されている、トマ・ピケティの『21世紀の資本』やOECDのレポートを見ると、中間層が切り崩されていく現象は、日本だけのものではないことが分かる。
また、さらに日本特有の問題というのが、重くのしかかってくる。
いびつな人口構造による少子高齢化の問題。
国と地方がかかえる1000兆円以上の財政赤字の問題。
旧態依然とした新卒一括採用や年功序列制度といった、さまざまな問題が、事態をさらに複雑化させている。
今、まさに日本が直面している事態を、見つめ直すのに本書は最適なものと言えるだろう。
序章は、「富の集中と再分配の歴史的背景」と題され、封建主義社会から産業革命へといたるイギリスの社会変動や、フランス革命などを見ていくことで、現在の世界で起こっている「富の集中」という事象を、客観的、歴史的な視点から物語っている。
序章は、第1章から第4章、終章へと続く本書のなかで異彩を放っている。
さて、本書の優れた点をあげてみよう。
それは、掲げられているデータの量である。
・経済の国際化と政府の規模の関係
・格差の世代間連鎖
・年代別、貧困リスクの推移
など、興味深いデータが多い。
私が特に興味を持ったのは、「1980年代半ば~2000年代後半の実質所得の上昇率」というデータである。
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本、スウェーデンといった国々の、実質所得の上昇率を所得階層別に示したものである。
このデータによれば、日本の下位10%にあたる所得階層の実質所得は、この期間マイナスになっている。
こんな国は、全7カ国中、日本だけである。
今や、日本は世界有数の格差大国になり、貧困層が増加している、という現状を示す興味深いデータである。
こうした現実を変えるには、どうしたら良いのか、といったことも著者は考えている。
豊中市や野洲市といった地域の取り組みを紹介し、地域の相互扶助の仕組みである「社会的コモンズ」の必要性を語っている。
本書は、日本の現状を知る上で大変有用な書物である。
それほど難しい本ではないので、是非手にとってほしい一冊だ。