本書は、睡眠のメカニズムを専門家の立場から、とても分かりやすく書いたものである。
本書を読めば、睡眠についての理解が一気に深まると思う。
例えば、「若者が夜更かしする理由」について以下のように述べている。
若者が夜更かしして、授業中に居眠りする者がいるのは、本人の生活態度に問題があるわけではない。
人は誰でも、成長過程にある思春期には夜型になるという生理的な理由があるのである。
そして、女性は19歳で、男性は21歳で、夜型のピークをむかえ、その後だんだん朝型になっていく。老人にはやたら早起きの人がいるものだが、それはこういった理屈なのである。
また、著者は睡眠不足のダメージについて、少し寝足りない日々が1~2週間続いたら、徹夜と同等のダメージを受けるというのだ。
忙しいので、毎日少しずつ睡眠時間を削り、時間を捻出して、勉強や仕事に打ち込んでいる人も多いと思うが、睡眠不足の蓄積は、認知機能の低下という形であらわれる。
眠気は一定程度まで強くなると頭打ちになるが、認知機能の低下は、睡眠不足の蓄積に応じて、どんどん低下するのである。ということは、毎日少しずつでも寝足りない日々が続いている生活は、改める必要があるのだ。
朝型生活を推奨する本は数あるが、そう簡単にはいかないと著者は疑義を呈している。
早朝の光を浴びれば、体内時計を朝型にシフトさせることができるというのは、朝型生活を勧める本には必ず書いてあることだ。
これを光位相反応(朝型シフト効果)と呼ぶ。この効果を利用して、朝型生活に移行しよう、と決まって書いてあるものだ。早起きをしてつらいのは始めだけで、だんだん慣れてくるというのだが、そうでもないと著者は言う。
光位相反応(朝型シフト効果)については、注意して考えてみる必要がある。というのは、早朝の光を浴びれば、すぐに体内時計が朝型シフトするわけではない。体内時計が朝型になるのは、翌日からなのだ。
したがって、光位相反応の効果を使って、朝型の生活に切り替えるとなると、毎日継続しなければ効果はなくなってしまうわけだ。
平日は頑張って早起きしても、休日に寝だめしてしまっては、その度に、夜型にシフトしてしまう。さらに、朝型の生活が定着するのには、時間がかかるという理由もある。もともと人間は、夜型になりやすくできているのである。
本書は、このような一般にありがちな朝型生活のススメ的な本の誤りを指摘し、正しい睡眠の知識を身につけるのに大変有効なものである。
本格的に朝型に生活を切り替えたいというのなら、この本を読んで、何がうまくいっていないのか分析してみるというのも良いと思う。