ベトナム、タイ、ラオス、カンボジア、マレーシアといった東南アジアの国々に進出する日系企業は多い。
これらの国に進出した企業は、経済環境だけ整えばうまくいくのだろうか?
現地の人々の価値観や倫理観、仕事に対する意識などは、実に多様である。
日本人にとっては常識だと思っていることが全く通用しない。
本書は、東南アジアで働く日本人駐在員が、現地人とのあいだに起きたトラブルを、軽いタッチで仕上げた読み物である。
本書が示す実際にあったトラブルとして、「雨が降ったら会社を休む」、「会社が暇だから家に帰る」といった呑気なものから、従業員による横領や、役人の腐敗といった深刻なものまで取り上げられている。
本書で、紹介されている話でこういうものがあった。
ベトナムでは、公安警察が企業を取り締まる。
公安から見れば、日系企業はお金を持っている、いいカモでしかない。
公安は、不定期にオフィスを訪れて、ガサ入れをおこなう。
法的に何ら問題が無くても、公安のさじ加減ひとつで営業停止になることもあるので、公安が来るたびに賄賂を支払わなければならないのだ。
これだけでも、日本人からすると衝撃的だが、本書で紹介している例は、もっと深刻なものである。
公安との対応は日本人では難しいので、現地人の従業員に任せることにした。
すると、公安との関係は良好なものになったが、彼らが定期的に訪ねてくるようになった。
そして、公安によって寄付を要求されたり、パーティー券を買わされることが常態化してしまったのだ。
よくよく調べてみると、公安との対応を任せていた現地人が、公安と結託して会社からお金を巻き上げていたようで、公安へと渡った賄賂の一部が、キックバックされていたのが発覚した、という顛末が描かれている。
あるいは、こういう話も紹介されている。
カンボジアでは、毎月税務署に行って申告しなければならないという。
これだけでも大変なのに、申告書の書類の束にドル札を挟んでおかないと、受け付けてくれないという。
日本では信じられない話だが、東南アジアの国々では、こうしたことはよくある事である。
日本人は、東南アジアのこうした習慣を、非常識だとして一方的に非難したり、軽蔑したりしがちである。
もちろん、役人の腐敗は、問題だと思う。
だが、別の言い方をすれば、日本人は役人を信用しすぎているとも言えるだろう。
最後に、私がこの本を読んで考えさせられたエピソードを、ひとつ紹介しておこう。
タイ人は時間にルーズである。
平気で会社を遅刻する。打ち合わせにも遅刻する。こういった事は日常茶飯事だ。
ところが、彼らに言わせれば、日本人こそ時間にルーズだと言う。
「終業時間を過ぎていても、残業させられるのは不当だ」と感じているそうだ。
確かに、日本人はその点では時間にルーズであると言えるだろう。
本書は、東南アジアの人たちの習性を理解する上で、有用なものであり、それを知ることで、日本人の習性を客観的に把握するのに役立つものである。