著者の江口克彦氏は、23年間ものあいだ、松下幸之助の部下として働いてきた経験を持つ。
江口氏は、1997年に『上司の哲学』を発刊し、ベストセラーになった。
著者にとって、上司の模範とされるのは、もちろん松下幸之助である。
したがって、本書でも数多く、松下幸之助の逸話が取り上げられている。
目次を見ると、上司に不可欠な能力20個をあらわすタイトルが、それぞれ章ごとにつけられているので、著者が何を言わんとしているのかが明らかになる。
「夢を持たせて誇りを持たせる」、「努力の方向を明確に示す」、「口先ではなく、心でほめる」、「熱意を見極め評価する」、「やらせて、潜在能力を引き出す」、「尋ねてほめて育てる」、「信頼して仕事を任せる」…このような章立てになっている。
一見ありきたりなことが書かれているように感じてしまうが、本文を読むと、味わい深く、著者の説く「上司力」という概念に一気に引き込まれていく。
本書を読んで感じたのは、結局のところ上司力とは、人間性そのものということだ。
上司は、多くの部下に支えられている存在である。
上司は、優秀な部下を育てる努力を怠ってはならず、優秀な部下をそばに持つ勇気が必要とされる。
そして、優秀な部下を使いこなす叡智が求められるのである。
松下幸之助は、経営者の条件を一つだけあげるとすれば何か?と問われたとき、次のように答えた。
「自分より優れた人を使うことができること」
たまに、部下の能力に嫉妬をする上司がいる。
このまま行けば、自分より上にいってしまうかもしれない、と不安にかられるのだ。
そして、部下の出世を妨げるため、押さえつけようとする。
このような上司は、非常に愚かである。
部下が伸びていけば、結局はその部下を育てた上司も評価されることになるのだ。
自分より能力のある部下をいかに使えるかが、賢い上司に不可欠の能力なのである。
会社という組織が一人でやっていけない以上、部下の力なくして、会社の成長はありえないのだ。
では、こうした上司として不可欠の能力を身につけるにはどうしたら、良いだろうか?
それは、人柄や人徳といったものを磨くしかない。
能力というものは短期間で取得できるが、人柄・人徳といったものは、一朝一夕で作られるものではない。
普段の生活や態度のなかから、こうしたものは、にじみ出てくるものである。
本書は、上司に必要な能力を20個に分類し、それぞれ一章ごとに簡潔にまとめあげたものだ。著者の人間観察眼は鋭く、「経営の神様:松下幸之助」という人格を見抜いていると思う。本書を読めば、松下幸之助の人柄に触れることができるはずだ。
松下幸之助が、どのように人と接していたか、どのような習慣を持っていたか、そういったことを学び、読者自身のものへと取り入れていけたら最良である。
平易に書かれているので読みやすいが、この本に書かれていることが実践できるようになるには、繰り返し読んで、自分を律していく必要があると感じた。