仕事の技法 田坂広志/著 書評
「仕事の技法」というタイトルがつけられているが、本書はハウツーもののビジネス書ではない。
営業、開発、経理、総務、広報、人事といった、いかなる仕事であっても求められる、根幹的な技法について書かれている。
あらゆる仕事における「根幹的な技法」とは、「対話の技法」のことである。
というのは、どういった職種であれ、上司や部下、顧客や取引先など、人間を相手とするものだからだ。
「対話」とは、相手にメッセージを伝えること、受け取ることのすべてを指す。
対話には、二種類ある。
表層対話と、深層対話と二種類に分類できる。
表層対話とは、言葉のメッセージによる対話のことだ。
もう一方の深層対話とは言葉以外のメッセージによる対話のことである。
「言葉以外のメッセージによる対話」というと、不思議な感じがするかもしれないが、私たちは日常生活のなかで、実に多くの非言語的なコミュニケーションをしている。
例えば、会話の最中に相手の表情や仕草から、言語外のメッセージを感じ取ることはないだろうか?
自分の話を黙って聞きている相手が、時計をチラチラ見ていたら、「話を切り上げたいのかな」と感じ取るだろう。これが深層対話である。
同じ言葉を聴いていても、その速さやトーン、顔の表情や仕草によって、受ける印象はまったく違ってくると思う。
こうした非言語的コミュニケーションによる対話力を身につけよう、というのが本書の狙いである。
コミュニケーション能力の向上を目指せ!
非言語的コミュニケーションの能力を高めるためには、どうすればいいのだろうか。やはり、まずは言葉以外のメッセージを感じ取る力を高めことからスタートする。
それには相手をよく観察すること、相手の立場に立って考えてみること、こういったことが必要になってくるだろう。
同時に、自分が言葉以外のメッセージを発していてそれが相手に伝わっていることも、理解しておくべきである。
また本書において著者が「操作主義」という言葉で示しているが、人をモノのように動かそうとする態度は、絶対に良くない。
こうした態度は、相手に伝わってしまうものだからだ。
他人を利用しようと考えている人間は、必ず失敗するものだ。
本書では、「操作主義」を、有名なイソップ物語の「北風と太陽」になぞらえて説明している。
一人の人間を、長く騙すことはできる。
多くの人間を、一瞬騙すことはできる。
しかし、多くの人間を、長く騙すことはできない。
他人を利用しようということばかり考えている人間は、深層対話によって、相手に、利己的性質を見抜かれているのである。
良きビジネスパーソンとなるには、深層対話力を身につけよ、という著者の主張は、正しいと思う。
本書は、具体的なビジネスシーンを例にあげながら、話をすすめていくので、読みやすく、かつ実践的なものだと思う。
是非、本書を読んで、あらゆる仕事の根幹的技法である「深層対話力」を磨いてほしい。