牛肉を通して、食の問題を考えた本である。
ここ最近、中国では牛肉を食べるひとが増えた。
中国人は、これまで豚肉や鶏肉を食べ、牛肉はあまり食べなかったのだが、近年の経済成長によって、食への意欲が高まっている。
中国が世界の肉を食べ尽くす?
中国の牛肉輸入量は、2013年に日本を上回り、今後も増えていく見込みである。
中国では都市部はもちろんのこと、内陸部にまで牛肉ブームが到来している。
現在、牛丼屋やステーキハウスなどが、出店ラッシュを迎えている。今後、ますます中国における牛肉の需要が高まれば、日本と牛肉の争奪戦を繰り広げることになる。
争奪戦に負ければ、日本は牛肉を輸入できなくなる。そうなれば、本書のタイトルのように「牛丼が食べられなくなる」のだ。
食料の先物取引という名の金融商品
しかし、中国との牛肉の争奪戦よりも、もっと深刻な問題がある。
それは、コモディティ・インデックスファンドという金融商品の存在である。
コモディティ・インデックスファンドとは、肉や穀物などの食料の先物取引のことである。
本来、コモディティの先物取引は、安定的に食料を買いつける為に設けられたものだ。
天候によって、先の読めない穀物などの取引で、大損しないように、収穫前のある段階で、特定の値段で売買をおこなえるのが先物取引である。
日経平均先物・ETFが個別株よりも売買されやすい理由
先物取引といえば、日経平均先物が馴染み深いだろう。これに喩えると分かりやすいと思う。
日経平均先物は、日経平均株価の算出基準となる225社の平均株価を、金融商品化したものである。
例えば、大規模な災害が発生したというニュースが入ったとする。
これを受けて、株価が大きく下がると判断した投資家は、保有している株をすべて売るのには、相当な手間と時間がかかる。
もし225社の銘柄を持っているとすれば、1銘柄ずつ売却の注文を出さなければならない。
すべての注文を出すのに、1時間くらいかかってしまうかもしれない。
その間にも、どんどん株価が下がってしまったら、損失が膨らむばかりである。
こうした事態を避ける為に、投資家は、こういった緊急事態には、日経平均先物を売るのである。日経平均先物なら、1銘柄に売り注文をすれば良いので、1分もかからないので、手間も省ける。
こうしたことから投資家は、個別銘柄の注文よりも、先物の注文を先に出すので、現在の株価の動きは、先物の動きを後追いするものになってしまっている。
日経平均先物が上がったら、個別銘柄にも買いが入って上昇する。
日経平均先物が下がったら、個別銘柄にも売りが入って下落する。
このように、先物が個別銘柄の先行きを決めてしまっているのだ。
金融商品が実体経済を動かす本末転倒さ
牛肉や穀物などの先物取引にも、これと同様のことが言える。
先物取引の値段が、実際の牛肉や穀物の値段を決めてしまうのである。
投機筋が値上がりすれば儲かるからといって、どんどん価格を吊り上げれば、牛肉の値段が高騰することになる。
投機筋にとっては、先物価格が上がるほど儲かるから良いのだが、牛肉の値段が高騰するのは、牛肉を食べる消費者にとって好ましいことではない。
著者の指摘するところによると、サブプライム・ローンで金融市場から逃れた資金が、コモディティ市場に入っているという。
今後、投機筋によって、値段を吊り上げられれば、牛肉は高騰し、庶民は牛丼を食べられなくなるのではないだろうか。
本書は、牛肉を通じて、食の問題を考え、マネー資本主義に警鐘をならすルポルタージュとして、高い評価を与えたい。