『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴/著

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まず本書にある、かなりインパクトのあるエピソードを紹介してみよう。

ある日、アメリカの大手スーパーマーケットチェーン「ターゲット」のミネアポリス店に、怒りに満ちた男性が怒鳴り込んできた。
男性の高校生の娘あてに送付したクーポン券が、彼の怒りの原因である。
「まだ高校生の娘に、なぜベビー服やベビーベッドのクーポン券を送る必要があるのか?」
男性の怒りはもっともである。
店長は平謝りして、その場を収めた。

その後何日かすると、男性から店に対してお詫びの電話がかかってきた。
男性は娘と話をしてみて、娘が妊娠している事実を知ったのだった。

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このエピソードは、お店が、一緒に生活する父よりも先に、一人の買い物客に過ぎない高校生の妊娠の兆候に気づいていたことを示している。
マーケッターの情報力の凄まじさを、知らしめるエピソードだ。

なぜ、スーパーマーケットが父親よりも先に、妊娠に気づいたのかというと、それは、娘がマグネシウム、カルシウムなどのサプリメントを大量に買ったからだろう。
こんな些細なことから、妊娠していることが分かってしまうのだ。
気になる方は、是非本書の該当箇所を読んでほしい。

今やアメリカでは、極めて個人的なことである「妊娠」を、マーケッターに知られることなく、出産まで済ませるのは、とても大変なことなのだ。
マーケッターに知られないようにするためには、買い物はすべて現金決済にし、家族や友人への報告、ネット検索やソーシャルメディアの利用も、すべて厳重に警戒しなければならない。極めて慎重な行動が必要とされるのである。

さて、マーケッターは、どのようにしてこのような個人情報(パーソナルデータ)を手に入れるのだろうか?
ポイントカードを使って、買い物をすると、会社に購買履歴の情報を与えることになる。
インターネットで買い物をすると、氏名、住所、電話番号といった情報はもちろん、閲覧履歴まで会社に与えることになる。
ソーシャルメディアで、何か公開されている情報があれば、それも大きな情報源となる。

これらの情報をまとめ合わせて、マーケッターはどういった人物であるのかを推定する。
氏名・年齢・性別・住所・電話番号・家族構成・学歴・職業・年収といった情報を始め、喫煙者かどうか、持ち家かどうか、右利きか左利きかといったことまで多くのことを調べ上げられる。

さらに、そのようにして得られたパーソナルデータは、スコアリングされることになる。
住宅ローンやクレジットカードの返済履歴から、信用評価点を算出するのである。
それは、今後のローンの申請のときの判断材料にされるだけではなく、学校の入学や転職にも影響を及ぼすものである。
あらゆる個人は、勝手に点数化され、選別されるのである。

また、IPアドレスから割り出された居住地によって、港区や目黒区、世田谷区といった高級住宅地に住んでいる人からサイトにアクセスがあれば、金銭的にゆとりがあるユーザーだと判断して、商品の表示価格を吊り上げてしまう。
こういったことも実際に行われているのである。

このように、パーソナルデータがどのように利用されているのかという実例を本書は明らかにし、それに対する防衛策、政府による対応策といったことまで、欧米の事例を参照しながら、本書は解説を加えていく。
一冊で、パーソナルデータをめぐる問題を概観できる一冊となっている。
これを読んだ印象としては、マーケティングというよりは、むしろ社会問題として読むべき本のように思った。

パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった〈電子書籍Kindle版もあります〉
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