「悪夢障害」というタイトルだが、「悪夢」はもちろん、「夢」や「睡眠」についてのあれこれを知るには打ってつけの本である。
まずは、表題の、「悪夢障害」について、説明したい。
「悪夢障害」とは、悪夢を繰り返し見ることで睡眠が妨げられ、日常生活に大きな支障が出る睡眠障害である。
悪夢により、睡眠が妨げられるので、眠るのが怖くなるだけでなく、日中に眠気がつきまとうので、注意力低下などの問題に苦しむことになる。
本書では、「悪夢障害」の原因について、丁寧な解説がなされているが、それよりも至るところに見られる「夢」や「睡眠」に関する薀蓄を知るのが面白いように思える。
本書から学んだことを書いてみる。
夢といえば、フロイトやユングの研究が有名だが、ホブソンによる科学的な理論は一般的にはあまり知られていないと思う。
ホブソンは「活性化=合成仮説」というものを唱えている。
「活性化=合成仮説」は、レム睡眠の特徴を土台とした、科学的、医学的な夢理論である。
レム睡眠では、脳幹から夢を発生させる信号が生じ、急速眼球運動が生じている。この眼球運動によって脳の視覚野が活性化して、断片的情報が合成され、夢になるという理論だ。
睡眠中、私たちの精神活動の元になっている神経伝達物質の作用は、著しく変化している。
例えば、非現実的な夢を見ていても、これはおかしい、と疑問が生じないのは、認知機能を司るセロトニン、ノルアドレナリンの分泌量の低下が原因である。
そして、レム睡眠中に活性化するアセチルコリンは、脳の視覚や運動、感情を担う部位を刺激し、急速眼球運動を介して夢の視覚的なイメージ形成を引き起こす信号を伝達する。
このような、レム睡眠、ノンレム睡眠時の神経伝達物質の働きを根拠にしているのが、「活性化=合成仮説」である。
ホブソンの研究に拠れば、夢はレム睡眠時に多く見るものであるということだ。
たまに夢を見ているときに、「これは夢だ」と気がつくことがある。
こういった自覚的な夢を明晰夢(めいせきむ)という。
明晰夢を見ているときは、普通の夢を見ているレム睡眠時とは、脳の活動が大きく異なっている。
明晰夢は、バーチャルリアリティのような要素があり、訓練すれば自在に夢を操ることもできるようだ。
自在に夢を操るトレーニング方法については、是非本書を読んで身につけてもらいたいと思う。