著者は、臨床心理士、精神科医として、30年間以上にわたって、青少年の心の問題に向き合ってきた人物である。そんな著者が著した本書は、いわゆる「現代の若者論」ではないところに、注意を払って読むことおすすめする。
現代の若者論といえば、主に10代後半から20代の者を対象にするものが多い。
大学生や、若手の社員は、しばしば偏見に満ちた目を向けられ、マスコミから「若者の○○離れ」という言葉に象徴されるような、見当違いな批判の対象になってしまうことも多い。世代的にいえば、昭和の終わり頃から、平成初期に生まれた者が、現在のこのような「若者論」の対象となる。だが本書は、そういった類のものとは趣向を異にするものである。この本は、若者のあり方を、30年以上に渡る歴史的文脈のなかで分析を試みるものである。
具体的にいえば、本書が対象とする「若者」は1980年代の若者であり、1990年代の若者であり、2000年代の若者であり、2010年代の現在の若者であるということだ。
1980年代の若者といえば、1960年頃に生まれた人たちであるから、現在、50代の人たちだ。したがって、本書の分析対象となっている若者たちは、現在の若者たちに限った話ではないのだ。著者の臨床の経験から、若者のあり方が、どのように変遷していったのかを、様々なデータから分析する。
個人的には、本書であげられているさまざまな事例の中でもっとも重大なものは、身体能力に関する記述であると思う。
1964年度から2013年度までにおける児童、学生の身体能力をグラフ化し、年次推移を示したデータが示されているが、こうして見ると、若者の身体能力の低下には著しいものがある。握力、ボール投げ、持久走、背筋力など、あらゆる項目で右肩下がりのチャートを描いている。子どもたちは、動かなくなり、筋力をおとし、血圧調節機能を低下させているのである。
本書は、日本の若者論を概観するには、恰好のものであり、新書というコンパクトな形で、読者に提供するものであるといえるだろう。