保育所における待機児童の問題は、大きく報じられているし、実感されている方も多いと思う。
しかし、待機児童問題の根本には、ある本質的な問題が潜んでいる。
本書は、現在の保育を取り巻く諸問題の本質を突く、渾身のレポートである。
泣いている子どもが放置され、あやしてもらえない。
食事の時は、流れ作業のように、口いっぱいにご飯を詰め込まれ、「早く食べて」と睨まれる。
公園に遊びにいくときは「早く、早く」と急かされる。
こんな保育所に、子どもを預けていたら、親は不安になるだろう。
著者は保育の現場を訪ね、保育の質の低下を痛感したという。
保育の質について考えたときに突き当たるのは、保育士の労働環境の問題である。
保育士の労働環境は苛酷である。
朝は早く、夜は遅い。
休みと給料は少ない。
保育所に勤務する保育士は全国で38万人いるが、その一方で、保育士の資格を持ちながら保育所に勤務しない「潜在保育士」が60万人以上もいるのだ。
この数字を見ても、保育士の待遇がいかに悪いのかが分かる。
なぜ、保育士の待遇は悪いのか?
2000年に、これまで社会福祉法人にしか認められなかった保育所の経営に、株式会社が参入できるようになったのが、大きな理由としてあげられる。
その後、次々に規制緩和され、保育のあり方が大きく変わったのである。
これによって、保育士の待遇は悪化し、保育所の質の低下につながっていると著者は分析する。
現在の子育て世代は、自分たちが低賃金で不安定な雇用形態で働かされ、子どもを保育所に入れるのも、待機児童問題を抱えているので、一筋縄ではいかない。
やっと保育所に子どもを預けられることが決まっても、そこが子どもと保育士を人間扱いしない“ブラック保育園”だったら、どうしよう。
会社を辞めて、自分で育てるのは経済的に無理なのだ。
本来、保育とは、国の将来を左右するほど、重要に扱われるべきものだ。
特に少子化で、女性の社会進出を促そうという政策がとられるならば、一番に手をつけないといけない問題だと思う。
現在、保育に充てられている国家予算は、全体の0.5%ほどしかない。
現在、保育の現場で何が起きているのかを一人でも多くの人に知ってもらうために、本書は多くの人に読んでいただきたく思う。