ハーバードやエール、プリンストンなどのアメリカの名門大学の名は、多くの日本人が知っている。
これらの大学は、アメリカのみならず、世界中から秀才が集まり、世界を代表する名門校であると言える。
イギリスに目を移すと、イートン校やハーロー校のようなパブリック・スクールや、ケンブリッジ、オクスフォードにおけるエリート教育は有名である。
だが、フランスのエリート教育については、それほど多くの日本人が知っているわけではない。
本書は、フランスのエリート教育がどのように行なわれているのかを体系的に示したものである。
フランスと日本の学歴エリートの違いについて、一つ指摘してみよう。
それは、フランスでは、理工系の地位が高いという事実である。
日本の場合だと、上場企業の役員の出身学部は、法学部、経済学部、商学部などの文系学部で占められている。有名な起業家の多くも、文系学部の出身者である。
ところがフランスでは、理工系出身者は日本よりも優遇されている。
日産のカルロス・ゴーンは、エコール・ポリテクニクとパリ鉱業学校に学んだ理工系であるし、運輸省や建設省、あるいは金融機関の幹部職員には、理工系の者が多いという。
さて、フランスのエリート教育の特徴とはなにか。
フランスのエリート教育は、「グランゼコール」において行なわれるものであって、大学でおこなわれるものではない。
日本の場合だと、将来のエリート予備軍は東大を始めとする名門大学に入る。
しかし、フランスでは独自の教育機関「グランゼコール」があるために、大学に進む者は、真のエリートではないのだ。
グランゼコールは300校ほどあって、その多くが国立である。
少人数教育であり、一学年150人から400人くらいしかいない。
にもかかわらず、教育予算として国から多くの資金を受けているので、いかに優遇されているのかが分かる。在学生には毎月、俸給と住宅手当まで支給されるというから、驚きである。
グランゼコールの有名校には、エコール・ノルマル、エコール・ポリテクニク、国立行政学院などがある。
この中で最も、フランスのエリート教育を特徴付けているのは、エコール・ノルマルであろう。
エコール・ノルマルは、大学教授を養成するための学校である。
サルトルやボーヴォワール、フーコー、デリダなどの多くの哲学者を輩出した学校である。
近年では、『21世紀の資本』の著者として知られる、経済学者のトマ・ピケティも同校の出身者だ。
エコール・ノルマルは世界一特殊な学校と言ってもよいだろう。
この学校には学科試験はないし、単位も学位もない。卒業証書もないのである。
在校生は好き勝手に、興味のある講義に出ればよいのである。
こういった学校が存在するところに、フランスエリート教育の真髄を見出すことができると思う。
本書は、フランスのエリート教育について、コンパクトな形でまとめあげているので、非常に満足感のある一冊に仕上がっている。