『アメリカのジレンマ 実験国家はどこへゆくのか』 渡辺靖/著

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本書は、現代のアメリカを概観するには打ってつけの本である。
とりわけ第2章は、独立戦争以来の「保守」と「リベラル」の相克の歴史を、コンパクトにまとめ上げたもので、この章を通読するだけで、アメリカ史の理解が大いに深まるであろう。

「黄金の50年代」は、古き良きアメリカの原風景である。
これは、分厚い中間層の存在と、キリスト教精神に基づく安定した社会の上に成り立っていたものである。
そんな「古き良きアメリカ」を体現する理想的な時代から、現在はかなり変容してしまった。

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現代アメリカの最も深刻な問題は、経済格差の問題である。
「黄金の50年代」はニューディール体制下における積極的な累進課税を通じた再分配により、比較的格差が小さい時代であった。
80年代以降、レーガン大統領によって推し進められた新自由主義的経済政策によって、アメリカの富は、一極集中することになる。
本書に示されている、「上位0.01%世帯と下位90%世帯の所得格差の推移」によれば、上位0.01%世帯と下位90%世帯の所得格差は実に1000倍である。

こうした、アメリカ経済政策における個人主義的傾向は、保守陣営による政策の表れである。
第3章で詳しく整理されているが、現在のアメリカは、経済的には保守潮流にあり、社会的にはリベラル潮流にある。
本書で説明されているように、アメリカの「保守」と「リベラル」の違いを、明瞭にしておかないと、アメリカ社会の理解は難しいだろう。
そもそもヨーロッパにおける身分制社会の否定を端緒として、生まれたアメリカでは、「近代」そのものに否定的なヨーロッパ流の保守主義は無く、建国の思想となったのは、個人の自由や権利を主張する啓蒙思想だった。
「保守」、「リベラル」どちらとも、こうした自由主義を源流としているものであり、両者のあいだの差異は比較的小さいと言える。
それゆえに、見分けにくいところもあるので、しっかりと理解しておきたい部分だ。

保守陣営は、経済的問題については、個人に帰属すべき領域であるとし、政府による介入を嫌う傾向にある。
その一方で、社会的問題については、個人の権利を抑制する傾向にある。
説明すると、富裕層への課税強化や、貧困層への支援といったことには否定的であり、性や民族をめぐる多様な価値観を認めることには、否定的である。

リベラル陣営は、経済的問題については、政府による積極的な介入を志向する。累進課税による富の再分配による格差の是正、社会福祉の充実といったものを求める。
だが、社会的問題については、個人主義である。
伝統的な価値観に縛られず、多様な価値観を認め合う立場である。

このように整理することで、現代アメリカの諸問題に関するスタンスの違いが、明瞭になるだろう。

また、本書の細かいところを見ていくと、アメリカによる歴史認識の問題について触れられている箇所がある。
ここにアメリカの歴史教科書において、日本がどのような扱いを受けているか書き込まれている。
少し紹介すると、日本の軍国主義については「日本の腹切りギャンブル」、「日本の狂信者たち」といった強い表現で非難するものが見られるものの、原爆投下や、排日移民法については、人種差別的であるという見解を示すものもあるという。

世代交代につれて、対日感情もかなり変わってきている。
こうしたことを知るためにも本書は有意な書物であると思う。本書は、新書というコンパクトな体裁をとりながらも、現代アメリカを理解する上で、充分すぎる一冊に仕上がっている。

アメリカのジレンマ 実験国家はどこへゆくのか〈電子書籍Kindle版もあります〉
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