『円安亡国 ドルで見る日本経済の真実』山田順/著

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アベノミクスはいつになったら本格始動するのか?日本経済復活が難しいこれだけの理由


黒田日銀による量的緩和によって、急速に円安が進行した。
著者によれば、今の円安は、これまでの円安とは違って、長期的に続くものであり、それは日本の経済力の衰退を示している、という。

一般的に、為替レートが変動する要因には次のものがある。
1、 金利差によるもの
2、 通貨供給量によるもの
3、 経済力によるもの

ここ四半世紀における円高と円安は、日米間の金利差と、通貨供給量によって変動してきた。
これらの要因によって、短期的なトレンドが形成されるものの、長期的なトレンドは、日米間の経済力によって決まってきた。
変動相場制になった1973年以降、日本は経済力を強めていった。
そして、長期的に見た場合、円高のトレンドを形成してきたのである。

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通貨供給量が増えていない異次元緩和

ところが、現在進行中の円安は、金利差によるものでも、通貨供給量によるものとも説明できず、日本の経済力が衰退していることを示している、と著者は主張するのである。

こうした著者の主張の前に、多くの人は疑問を持つだろう。
黒田日銀の異次元緩和によって、通貨供給量は明らかに増えたはずだ。こう思うに違いない。だが緩和によって、円安の一つの原因とされる通貨供給量は、実は増えていないのだ。

異次元緩和によってマネタリーベース(中央銀行の供給する通貨の総量)は増えている。しかし、マネーストック(世の中に出回っているお金の総量)は増えていない。これまで政府と日銀は、金融緩和でマネタリーベースが増えたら、マネーストックも増えて、世間にお金が回り、インフレ目標を達成していくと説明してきたにもかかわらずである。

つまり、量的緩和は機能していないということである。
著者が、今の円安は、金利差によるものでも、通貨供給量によるものでもない、と主張する理由は、こうした理屈による。

ジャパン・アズ・ナンバーワンは遠い昔のこと

本書で著者は、いかに日本経済が衰退しているのかを具体的なデータを交えながら、説明していく。そのなかから、いくつかを紹介してみたい。

現在日本は、一人あたりの名目GDPは世界第20位である。(2014年調査)
ランキングトップのルクセンブルク、ノルウェー、スイスなどに比べると半分にも満たない。
もちろん、アメリカ、フランス、ドイツなどの欧米諸国よりか、下位に位置している。
お隣の、韓国よりかは、かろうじて上位に位置している、といった程度である。

今では信じられないことだが、日本は2000年代初頭までは、ずっと1ケタ台に位置していたのだから、当時を知っている者からすると、知らないうちに随分と日本は貧しい国になってしまった感じがする。

一目でわかる日米間の経済格差

他国との経済力の比較、という点から言えば次のデータも興味深い。
本書で中心に扱われている話題であるドル円にまつわる話である。

円の価値を対ドルで見るなら、当然アメリカ経済との比較が必要となるだろう。
アメリカは、リーマンショック以降、量的緩和を続けながら、確実に経済を回復させてきた。
シェールガス革命が起こって、エネルギーの輸入国から輸出国に転換し、産業界には次々にイノベーションが起こった。
こうしてIT分野はもとより、バイオ分野、3Dプリンターによる生産、ロボットによる生産、次世代自動車にいたるまで、新技術は今や、ほぼアメリカ企業が独占するようになった。

こうしたアメリカの隆盛は、日米間の経済格差として、すでに現れている。
日本とアメリカの名目GDPの推移を比較すると、1980年代、アメリカのGDPは日本の2倍だったものが、それ以降日本はほぼ成長しなくなったために、現在では、なんと4倍近くの差をつけられているのだ。

日本経済がマイナス成長にならないのは、高齢者が低賃金で働いているから

最後にもう一つ、興味深いデータを紹介しておこう。

著者によれば、現在のところ、かろうじて経済がマイナス成長に転じていないのは、日本人が60歳以上になっても低賃金で働き続けているからだという。
高齢になっても働くという点において、日本は異常である。
前期高齢者(65歳~74歳)の就業率が40%を越えているのである。
世界にこんな国はない。
フランスはわずか3.6%、ドイツは7.7%、アメリカですら29.7%である。

日本はもう豊かさトップレベルの国ではなくなった

以上、本書の読みどころをいくつか紹介したが、本書は、日本経済がいかに衰退したのかを示すデータを、数多く収録している。
これらは、世界の中で客観的に日本経済を見たときの、視座を与えてくれるものである。
政府や日銀、マスメディアによる報道によって、本当に景気が良くなっていると思い込んでいる人、あるいは日本経済の弱体化、国民生活の貧困化を実感できていない人がいれば、この本を読んで、客観的に、今の日本の状況を知っておくべきだと思う。

円安亡国 ドルで見る日本経済の真実〈電子書籍Kindle版もあります〉
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