本書は、「話し上手」になるためのハウツー本ではない。
話し方、聞き方を含めたコミュニケーション全般の基本姿勢を学んでいくために必要となる、根本的な考え方、そしてスキルをまとめたものである。
「話し上手になるためには、どうすれば良いのだろう?」と、悩んでいる人は多いだろう。
本書は「話し上手」になるための、基本的な姿勢を教えてくれる。
話し上手になるコツとは
では、話し上手になるには、どうすればいいのだろうか。それは、「自分の領域」の中だけで話すことだ。例えば「私」を主語にして話すようにしてみるのである。
人は、自分の領域について踏み込まれると、警戒心を持つ。
したがって、相手の領域に踏み込んでいくような話を切り出さなければならない場合、話の進め方には充分注意する必要がある。
話し上手になるポイントは、相手との距離感をはかること
例えば、「あなた、ゴミ出しもしてくれないの?」というと、相手は「自分が責められている」と感じてしまうだろう。
これは、いきなり相手の領域に踏み込んでいく話し方である。
「あなた」と二人称が主語になっている、こうした話し方は良くない。
これだったら、「私、今余裕がないからゴミ出ししてくれると助かるんだけど、お願いできないかしら?」というように、一人称を主語にして話すのが正解だ。
口下手の改善・克服を目指すより聞き上手になろう!
だが、「話し上手」になることばかりに気を取られてしまってはいけない。
コミュニケーションを円滑にするには、話すことと同様に、聞くことも重要な要素に違いないからだ。
もし「口下手」で悩んでいるならば、「話し上手」を目指すよりも、むしろ「聞き上手」を目指してはどうか、という提案を、著者はおこなっている。
「聞く」という行為は、相手に安全な環境を提供することである、と著者は書いている。
相手が自由に話してくれるためには、相手の警戒心を解かなければならない。
そうなると、相手が話しやすい環境を作ってあげることが、必要となってくるのだ。
具体的に、聴き上手になるための方法については、本書を読んで参考にしていただきたいと思う。
話し上手、聞き上手になることは、相手を思いやることであり、対人関係のコツでもある
この本は、対人関係療法を専門とする精神科医によって書かれたものであるところが、ポイントだと思う。いうまでもなく、精神科の診察行為は、患者の話をじっくりと聞くことからはじまり、信頼関係を構築し、コミュニケーションをはかっていくことそれ自体である。精神科医とは、いわば話すこと・聞くことの専門家でもあるのだ。
ハウツーもののビジネス書とは程遠いが、文体に温かみがあり、対人関係で悩んでいたり、自分のコミュニケーション能力に自信がないならば、この本を読んで、対人関係の能力向上に役立てることができると思う。