正しい歴史認識という「厄介な問題」の解決はあるのか? 『「歴史認識」とは何か 対立の構図を超えて』 大沼保昭・江川紹子/著

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著者の大沼保昭氏は、著名な国際法学者であり、これまでに「アジア女性基金」の運営やサハリン在留朝鮮人問題などに関わった、行動的な学者として知られる。
ちなみに大沼保昭氏のご息女は、自民党参議院議員の大沼瑞穂氏である。

本書は、ジャーナリストの江川紹子氏が大沼氏の自宅を訪ね、話を伺うという形で進められた。

江川氏は、うまく大沼氏の考えを引き出していて、聞き手としての役割を十全に果たしている。いわば、本書は、江川氏に対する大沼氏の講義録とも言えるものである。

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お互いの「正しい歴史認識」が生み出す争い

本書は、東京裁判・戦争責任・慰安婦問題といった論者によって極端に主張が分かれ、対立を招くテーマごとに「見取り図」を読者に分かりやすく示すことを目標にして、つくられたものだ。どのテーマも、保守派、リベラル派双方によって、大きく意見が分かれるところだが、本書はどちらか一方の意見に与することなく、学術的な根拠によって、公平に語られている。

何故日本だけが謝り続けるのか?

私が本書のなかで、最も熱心に読んだのが、第5章「二十一世紀世界と歴史認識」だ。
この章で、江川氏のする質問は、多くの日本人が思っている疑問だと思う。
それは、「なぜ英仏は過去の植民地支配に対して問われることがないのか?」ということである。

日本がアジアの国々を植民地にしたのは、欧米列強を模倣したからである。
日本の植民地支配が非難を招くものであるのならば、当然、英仏といった欧米列強もこうした非難を受けなければならないと考えるのが自然だと思う。

中国が欧米各国に対しても歴史認識カードを切る可能性も

これに対する回答として、大沼氏は、ナショナリズムが重要な役割をもつようになったのは19世紀以降であり、異民族支配自体が「悪」だという意識はなかったことをあげている。
また、英仏が多くの植民地を持っていたアフリカでは、小民族が分立していたような状態だったのを、欧米列強によって植民地化されて、第二次大戦後に独立国となっているという歴史的背景から、宗主国であった国への批判が向かいにくいという事情を解説している。

しかし、中国は日本との外交のなかで、「歴史認識」という外交カードの有効性を知ってしまったので、今後、欧米に対しても、このような外交カードを使ってくる可能性が高いのではないか、と指摘している。

歴史認識を議論する前に必要な知識の整理に役立つ本

本書は、歴史認識をめぐる問題を、国際法の第一人者によって語られたものであり、非常に多くの知見が得られるものである。

この手の本は、著者の名前を見ただけで、どういった主張がなされるのかが、読む前に分かってしまうような本も多い。そういった類の本にはうんざりしていて、公平で、学術的な見解に耳を傾けたいという方には、願ってない仕上がりになっていると思う。
「歴史認識」とは何か 対立の構図を超えて〈電子書籍Kindle版もあります〉
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