マグロ漁船だけが漁業ではない! 『日本人が知らない漁業の大問題 』 佐野雅昭/著

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「サーモンばかり食べるな」という煽情的な言葉が目次にあるのが目についたので、読んでみた。
本書は、日本漁業を取り巻く問題点を網羅的に扱った新書である。

漁業の話題が、テレビや新聞などで大きく報じられるのは、クロマグロの輸入が規制されそうな時だとか、捕鯨問題だとか、あるいはウナギが不漁により価格高騰した時だとか、ごく一部の場合においてのみである。
そうした時には、「マグロが食べられなくなる!」とか「日本の食文化を守れ!」といった報道がなされるのだが、これは、全くおかしなことだと著者は言う。

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中国人がマグロを食べつくす?

なぜなら、クロマグロやクジラ、ウナギなどは、どれも贅沢品であって、私たちが日常的に食べているものではないからだ。
日本沿岸には、多様な水産物がいくらでもいるし、こうした魚のほうが安く大量に供給できるのだ。
マグロやウナギばかりで騒ぐのは、食料問題に向き合っているようだが、本質を突いていない、と著者は言う。

わたしたちは有名なものや華やかなものにばかり目がいきがちであるので、このような著者の姿勢は、漁業に限らず他の事柄について考える時も重要なものではないだろうか。

日本の漁業の実態

本書には、現在の日本の漁業をめぐるさまざまなデータが掲載されている。そのいくつかを拾ってみよう。

漁業を漁業者の所得は、毎年減少し、2012年には約200万円であるという。
さらには漁業就業者の高齢化も深刻な問題である。就業者の約半数が60歳以上というから、いかに後継者不足なのかが伺える。
こうした問題を考えると、マグロやウナギよりもずっと重大な問題であることに気付く。
このままでは、日本の漁業自体が消滅する恐れもあるのだ。

なぜ、日本の漁業はこのような危機的状況を迎えてしまったのか?どうしたら問題を解決できるのか。そういった目的で、本書は執筆されているのである。

漁協の役割、農協との違いとは?

本書は、現在の漁業を取り巻く問題を、輸出入の問題、漁協についての誤解、養殖をめぐる問題、流通制度の意義、小売店の問題、食文化の変化といったあらゆる観点から見つめ、多角的に考察されている。

あまり漁業に関心がない人にとってみたら、漁業は農業と似たようなものだと思いがちだが、漁業と農業は全然違うということが、本書を読むとわかる。

もちろん漁協と農協も全く違うのだが、世間では同じようなイメージで語られることが多い。おそらく漁協が漁業に関してどのような役割を果たしているのかを正確に答えられる人はほとんどいないだろう。

マグロ漁船だけが漁業ではない!

本書は、私たちが普段何気なく食べている魚にまつわる問題を、懇切丁寧に解説してくれている。

ですます調の文体とは裏腹に、容赦なく繰り出される頑固一徹な主張を見ると、著者がいかに日本の魚食文化と、漁業を愛しているかといったことが、ありありと伝わってくる。

漁業といえば、「マグロ漁船の乗員になると儲かるらしい」といった程度の印象しかがないのが現在の日本人であるが、本書はそのような人に向けて書かれている。

冒頭の「サーモンばかり食べるな」という著者の主張が気になった方は、是非読んでほしい。

日本人が知らない漁業の大問題〈電子書籍Kindle版もあります〉
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