「ご新規3名様、ご案内でーす!」
飲食店などに入ると、よく聞くフレーズである。
はじめて、入ったお店なら違和感の無い言葉だが、何度も店に通いつめるようになると、この言葉に違和感を持つ人もいる。
「僕は何度もこのお店に来ているのに、なんで“ご新規”なんだろう」と、感じるのだ。
確かに、自分では常連だと思っているのに、店に行くたびに「ご新規」扱いされるのは、お店の人に覚えられていないみたいで、いい気持ちがしない。
なぜ、「ご新規様」という言い方をするのだろうか?
実は、飲食業界では、すでに誰かが来ていて遅れて合流する「お連れ様」と、そうではない「ご新規様」を分けて呼ぶことにしている。このようにお客さんを、区別しているのである。
「ご新規様」という言葉は、決して「一見さん」という意味ではない。
しかし、このような店側の基準での客の分類を、お客さんは知るわけもないから、不可解に思うこともあるということである。
このエピソードは、社内用語の運用や、顧客の分類の問題として考えることができる。
顧客の分類は、企業が最も慎重に扱わなければならない問題と言っても良い。
例えば、「御社のお客様は、どんな方なのですか?」と、会社の人に尋ねたときに、明快に答えられない場合は、見込みが無い会社である。
「お客様は一人ひとり違いますので、それぞれのお客様に合わせて、ご対応させていただいております」といった返答を、よく耳にするが、こういう回答をする会社は、非優良企業だと著者は言う。
なぜなら、こういった返答をする会社は、顧客対応の基本パターンが実は一つしかなく、その枠のなかで現場がやりくりすることになっている。
結果として、すぐに例外対応となって、コスト高になってしまい、個別の顧客対応がおろそかになるものだ。
確かに言われてみればそうである。一人ひとりの社員は優秀でも、組織全体としてまとまると成果がでない。大企業においてもこうした事例は見出される。
では、なぜそのようなことが起こるのだろうか。著者は、人は組織に所属しているときに、無意識にしたがっている基準があると分析している。
ビジョン、戦略
権限や承認手続き
習慣
業績評価基準
昇進昇格基準
行動規範
価値観
企業理念
このようなものが知らないうちに内面化されて、組織に属する者の思考や行動を、良くも悪くも縛り付けていくのである。
このように、8つの組織の基準が、それぞれどのような状況にあるのかを見ていくと、主に組織に問題がある場合は、以下のように整理できる。
①それぞれの階層における基準や運用そのものに問題がある
②基準が社員に浸透していない
③階層間に齟齬がおこっている
①は、基準自体を改めてしまえば対処できる。②は、社員に言い聞かせれば済む話だ。
問題となるのは③の場合である。
組織を構成する各階層ごとに齟齬があって、全体として一つのシステムとして機能していないのである。
こうした構造的な問題は、組織の病理ともなって、問題を深刻化させるのである。
本書は、このような日本の企業にありがちな組織特有の問題を、簡潔に整理し、コンパクトにまとめたものであり、具体例が豊富で大変読みやすい一冊となっている。