経済理論には、主に3つの流派がある。マルクス経済学、ケインズ主義、そして新古典派経済学とその流れを汲む新自由主義経済学である。今日の世界では、そのうちの新自由主義経済学が経済理論の主流をしめ、世界経済を動かしている。
新自由主義とケインズ主義の違いとは
新自由主義経済学とは、小さな政府、自由放任という立場に立って、政策を立案し、遂行していく考え方である。わかりやすく一言で説明すると、「好きにやっていいけど、助けないからね」というスタンスである。(もっともこれには、大銀行などが倒産の危機にある時には、じゃぶじゃぶと公的資金という名の税金を突っ込んで救済するという、都合のいいからくりがついているのだが)
これに対してケインズ主義は、不況時には政府が市場や社会に積極的に介入し、公共投資をすることで状況を改善していくべきという考えに支えられている。こちらは簡単にいえば、不景気になったら政府が無理にでも仕事を作って、お金の動きを作り出すことだと思えばいい。
株式投資は美人投票のようなもの
本書は、そのケインズ主義の発案者であるジョン・メイナード・ケインズが、実は株式投資の達人であったことを描き出す読み物である。ケインズいわく「株式投資は美人投票のようなもの」らしいが、株式投資を中心とする金融市場といえば、新自由主義の牙城ともいうべき空間である。そんないわば敵地で、ケインズが好成績を挙げていたという話は、なんとも興味をひく。
実際ケインズは、株式投資で相当の利益を上げていたらしい。自身の財産を潤沢なものにしたばかりでなく、母校ケンブリッジ大学の基金を運用して、13倍にもしているというから、相当なものである。
もっともそのケインズ、あまりにも好成績であるため、大蔵省に勤務していた時期をはじめ、インサイダー情報を握っていたのではないかと勘繰る穿った見方もあるようだが、イギリスにおいてインサイダーに関する法律が制定されたのは1980年代だというから、法的観点に立てば、ケインズが法を犯していたわけではないという点は、強調しなければならないだろう。本書では、当然ケインズの運用成績についても詳しく解説がなされている。
ケインズの株式投資の方法はバリュー投資のやり方だった
では、肝心のケインズの投資のやり方はどのようなものなのかといえば、ウォーレン・バフェットのそれだと思えばいい。自分が信頼でき、理解できる事業を行っている企業の株を割安の状態で購入して、上昇を待って利益をあげるバリュー投資と呼ばれるやり方と同じ考え方で投資に臨んでいる。その企業が扱っている商品やサービスの価値を理解し、その上で現在の株価が適正なものであるのかを考えたうえで、自分がコントロールできる範囲内で取引をするのである。
これは、極めてまっとうな銘柄の選び方である。何よりも自分が納得づくで取引に踏み切るのだから、もし失敗したとしても諦めもつくというものである。誰かに薦められて失敗する投資ほど馬鹿らしいものはないのだ。この方法は、株式投資の初心者にとってうってつけのやり方であるので、株を始めてみようと思っているひとは、ぜひバリュー投資からチャレンジしてみることをおすすめする。
ちなみにケインズは、4歳の時に父親から利子とは何かを聞かれたときに、すでにその要諦を説明できたという。そんなことを4歳児に聞くほうも聞くほうだが、答えられるケインズもすごい。公共投資の守護神であるケインズは、本質的に株式市場の子であったとも思えてくるエピソードである。
なお、ケインズの株式投資については、20世紀最高の経済学者 ケインズ 投資の教訓もおすすめの一冊となっている。あわせて読んでみることで、よりケインズの投資方法が理解でき、かつ銘柄の選び方をはじめとする投資の要諦をつかむことで運用成績のアップにもつながるはずだ。
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