『うつの8割に薬は無意味』 井原裕/著

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本書は、うつ病の薬に頼りきっている方には、ショッキングなタイトルだと思う。
しかし、患者は、うつ病の治療を受ける上で、圧倒的な情報弱者である。
精神科医や製薬業者の常識を知っておいて損はない。

今、「うつ病」が「流行って」いる。
2008年の厚生労働省患者調査によれば、患者数は100万人を越えたという。
日本医学史上、これほどまでに「うつ病」が増えた時代は無かった。
どうしてこんなにも「うつ病」が猛威を振るっているのだろうか?

これほどまでに患者が増えたのは、日本人の心が弱くなったからだとか、高齢者が増えたからだとか、貧困率が増えたからだとか、そういった理由からではない。うつ病の診断基準が、近年大きく変わったからである。

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米国精神医学会の「DSM」(精神障害の診断と統計マニュア:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、うつ病の診断基準に大きな影響を与えた。
いま精神科臨床の現場で当たり前のように使われている「抑うつ気分など9つの症状のうち5つ以上が2週間以上続く場合は、うつ病である」という操作的診断基準が、DSMを通じて世界中に広まったのだ。

ここで示された診断基準の症状は、抑うつ気分のほかに、興味や喜びの消失、体重変化、不眠などの障害、気分の低下、罪責感、思考や集中力の減退などだ。
操作的基準とは、病気に特徴的な複数の症状のうち、いくつ患者に該当するかで診断を下すというものである。

このような操作主義診断は取り決めに過ぎず、科学的に根拠があるとは言えない。
しかも原因を考慮していないので、抑うつ気分にしても、興味や喜びの喪失にしても、それらが仕事のストレスや辛い出来事などに起因する一時的な落ち込みなのか、疾病として捉えるべき本当のうつ病の落ち込みなのか判断できない。

つまり「悩める健康人」の落ち込みであっても、症状が5つあって2週間続けば「うつ病」とされる可能性がある。
明らかにそれとわかる、うつ病なら、それで良いが、問題となるのは、グレーゾンのうつ病の場合だ。

操作主義診断は、「病的なうつ」と「自然な悲しみ」との境界線を「症状が5つあって2週間」という決まりを作って、そこで分断してしまった。
そこに明確な根拠があるわけではない。
従って、「悩める健康人」までもが十把一絡げに「うつ病」と診断されるようになってしまい、何でもかんでも「うつ病」と診断されてしまうようになり、結果的に「うつ病」に悩む患者が増えてしまったのである。

「うつ病」が増えると、精神科医は薬を出すことになる。というのは、精神科医の大半は、薬物療法以外の精神療法の知識がないからだ。

「うつ病」の薬には、大して有効性がない。
これは精神科医や製薬業者なら誰でも知っていることだ。
しかし、薬物療法以外に治療法がない以上、薬の有効性があまり無くても、精神科医としては、処方せざるをえないのだ。

以上、「うつ病」診断の実際と、「うつ病」の薬の有効性について見てきたが、本書を読めば、多くの事例をもとに「うつ病」患者が作られ、無意味な薬を処方されている現実を知ることができる。
是非、本書を読んで、「うつ病」の薬は本当に無意味なのか、確かめてみてほしい。

不安、悲しみ、憂うつ、自己嫌悪などに囚われるのは、誰にでもあることだ。
精神科医は、それを取り払うことは出来ない。
薬にはある程度、効果はある。
だが、薬は人生につきまとう憂うつや不安をすべて消し去るわけではない。
貧困、失業、パワハラ、派遣切り、多重債務、対人関係、家族関係、これらの問題の前に、精神科医は無力であるし、薬もこれらを解決することができない。
自分自身で解決するしかない問題である。

また、本書が指摘する、いたずらに「うつ病」を増やしてしまっている現実は、医療費問題や生活保護の不正受給問題といった、様々な問題にも大きく関わってくる部分なので、多くの人に知っておいてほしい事実だと思う。

うつの8割に薬は無意味〈電子書籍Kindle版もあります〉
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