著者のクリニックを訪れる男性を、さまざまな角度から分析したうえで、現代の男性がかかえるストレスについて論じている。
男性の精神の危機は、自分の存在価値や、アイデンティティーを喪失してしまっているのが原因である、と著者は分析する。
「男はかくあらねばならない」という思い込みが、特に上の年代の男性ほど強いと思う。
男は稼ぎ、家族を養うものだ、という思い込みがある。
しかし、今のご時勢、男性だからといって女性よりも高い収入が得られるわけではない。
会社から貰える給料も少ない。
現実的に、こんなに少ない給料で、結婚して家族を養うことなど不可能だろう。
しかし、そういったことを国や社会といった外的なものに批判を向けず、自分の能力が低いからだ、と思い込む。
自分より高い年収を得ている者や、高い地位にある者が周りにいれば、いかに自分に能力が無いのかを強く感じ、自分を責める。
こうした価値観は、確かにバブル崩壊前までは通用したかもしれない。
自分の収入が低いのは、努力が足りないからで、頑張ればなんとかなる、といった発想である。
今では信じられないことだが、昔の日本は好景気で、男なら誰でも年収500万円くらいは稼げたのだった。
だが、日本は世界でただ一つ25年間を通じて、まったく経済成長していない国なのである。
異常な国なのだ。
OECD加盟国のうち国民一人あたりのGDPは年々下回り、イタリアやスペイン、韓国と肩を並べるほどになった。
さらに新自由主義によって、富は一部の法人に占有され、大部分の人間は以前よりも貧しくなった。
「男性の生きづらさ」は、決して個人のせいではないのだ。こうした経済や社会の情勢を見れば、分かる。
しかし、男性の多くは、いまだに古い価値観にとらわれている。
「男は、女や家庭を守る」、「男は、ある程度の年収がなければならない」、「男は、ある程度の年齢になれば、それなりの地位に着いていなければならない」…。
こういった思い込みは、自分自身を追い詰めてしまうだけである。
この本を読んで思うのは、男性特有の考えは捨て去るべきだ、ということだ。
本書を読むことで、自分の生き方を見つめ直してはいかがだろうか。