ドイツは、EUの覇権国家として君臨し、今や「第四帝国」時代をむかえていると囁かれているくらいだ。
それだったら、さぞ、ドイツ国民は裕福な暮らしをしているのだと思いきや、実際はそうでもないらしい。本書がそれを明かしている。
ドイツは、世界一の輸出大国であり、堅実な国家財政はOECD加盟国の模範的存在である。
そのドイツに今、何が起きているのか?
ドイツは、戦後長らく続いたアデナウアー首相のもと、社会的市場経済主義という経済政策がとられた。
これは、企業による自由な活動に抑制をかけ、労働者を保護するものであった。
アデナウアー首相の経済政策によって、ドイツ経済は目覚しい発展を遂げた。
勤勉な国民性も相俟って、世界有数の経済大国となり、その一方で資産格差の少ない国として、知られていた。要するに、一昔前の日本によく似ているのである。
しかし、近年のドイツはEU随一の格差大国になってしまったという。
日本やアメリカといった世界の二大格差大国には及ばないものの、EU圏内ではトップクラスの貧困率を誇る。
ドイツが格差大国になった原因は、1990年代にとられた新自由主義的政策によるものである。
富裕層への減税と、それ以外の人々への増税、そして社会福祉の大幅な削減。
これにより、ドイツ国内で資産格差は一気に広がった。
本書は、さまざまなデータを持ち出してドイツ経済の戦後史を俯瞰し、現況を分析するさまは、トマ・ピケティの『21世紀の資本』を彷彿とさせる。
私が最も気になった箇所は、第9章「自営業者という名の貧困」と題された箇所である。
ドイツの自営業率のデータが図示されていて、戦後右肩下がりになっていることに気づく。
大手チェーン店による出店によって、町の自営業者は仕事を奪われている。
ドイツの自営業者は、公務員やサラリーマンなどの被雇用者とは異なり、社会保険料の支払いが大きな負担となり、とても家計が苦しいという。
それでも近年、自営業者の数が国策によって増やされていると著者は指摘する。
国が貧困層を作り出しているのだ。
本書は、EUの覇権国家と言われるドイツの実情を示したものであり、ピケティの主張がドイツにも当てはまることを示している。
また、日本人と国民性が似ているドイツの分析は、日本の現状を知る上でも役立つものだと思った。