《現在の日本には一匹の妖怪が徘徊しています――新自由主義(グローバリズム)という妖怪です。
この妖怪は1970年代にアメリカで生まれました。福祉型の資本主義を破壊して「国富を1%の富裕層と大資本に集中すること」を目的として活動を開始し、政権と結託して目的を達成しようとします。》
こうした文章から本書は始まっている。
著者は明言している。
本書を読んでいくと、新自由主義の成果とは、どういったものだったのかを、明確に知ることができる。では、新自由主義の目的とは何か。それは、「国富を1%の富裕層と大資本に集中すること」である。
ここでは、新自由主義発祥の地、アメリカはどのような道筋を辿ったのか、というのを説明してみたい。
新自由主義的経済政策が推し進められたのは、今から30年以上前の共和党レーガン政権においてである。
レーガン大統領によって推進された新自由主義型経済政策の理論的根拠にあったのは「トリクルダウン理論」だ。
「トリクルダウン理論」とは、「富裕層のお金を増やせば、富裕層が投資をしたり、消費をしたりするから、中間層以下の人たちはおこぼれを頂戴して、所得が増える」というものだ。
レーガン政権は、「フラット税制」を導入し、それまでの法人税の最高税率を50%から30%に、所得税の最高税率を70%から28%に大幅な減税をおこなった。
しかし、当初から著名な経済学者・ジョセフ・スティグリッツはトリクルダウン理論について、「実証性の乏しい政治的スローガン」として批判していたし、近年では『21世紀の資本』の著者、トマ・ピケティも「全くその通りになっていない」と、その信憑性に疑義を申し立てている。
オバマ大統領も議会で、「(トリクルダウン理論は)30年前のアメリカで失敗した古い財政政策である」と発言している。
果たしてトリクルダウン理論は間違っていたのだろうか?
トリクルダウン理論の実証性を確かめるには、ここ30年間で各所得階層における所得の伸びを確かめてみれば、容易に分かることである。
本書で示されている、レーガノミクスが行なわれた1979年から2007年までの所得の伸び率を階層別に示したデータを参考にしてみよう。
この28年間の物価上昇率は約80%であるのに、これを上回って所得が伸びているのは、トップ1%の富裕層のみである。
残りの99%はこの新自由主義が跋扈したこの28年間のあいだ、物価上昇率よりも遙かに所得の伸び率は低かったのだ。
特に下位20%の貧困層にいたっては、18%しか所得が増えていない。
賃金の上昇が、物価の上昇にまったくついていっていないのである。
新自由主義の理論的根拠である「トリクルダウン理論」が、インチキであることをこれほどまで明快に語るデータはないであろう。
こうして見ると、新自由主義は、「国富を1%の富裕層と大資本に集中すること」を目的としているという著者の主張は正しいものだと言える。
アベノミクスが失敗した原因は、新自由主義的に則った経済政策だったからである。
アベノミクスによって恩恵を受けたのは日経225に採用されているような大企業と、ごく一部の富裕層のみである。
「トリクルダウン理論」自体が誤りなのだから、当然の結果だ。
本書は、新自由主義の問題点をあらゆる角度から分析している。
・1990年代後半に新自由主義が日本に侵食してきてからの、これまでの歩み。
・IMFによって新自由主義の導入を余儀なくされた韓国の現状。
・新自由主義を拒絶するヨーロッパ。
・新自由主義による経済低迷を救った、クリントン大統領による積極財政政策。
こうしたことが本書によって明らかにされている。
個人的な感想としては、ヨーロッパの分析をもっと掘り下げてほしかったが、新たに得られた知識も多かった。
アメリカでは過去の遺物になりつつある新自由主義が、未だに我が物顔で跳梁跋扈している日本において、本書は多くの人に読まれるべきものである。